公益財団法人 世界宗教者平和会議日本委員会

Heartful Message

こころの扉

すべての人々が平和と豊かさを享受するために

大本東京本部東京宣教センター長・WCRP日本委員会活動委員 橋本伸作

NHKスペシャル「2030未来への分岐点 飽食の悪夢~水・食料クライシス」を見る機会がありました。急速に進む温暖化や農地の荒廃、水源の枯渇など、深刻な現状が紹介されていました。まだ食べられそうな白いご飯や青々とした野菜が次々と処分されていく映像に、心が痛みました。

日本での食品ロスは年間612万トン。これは国連などの食糧支援の1.5倍にあたるそうです。食料自給率(カロリーベース)が38パーセントの日本。何か事が起こればどうなるのだろうかと、不安が募ります。

事実、食料の半分を輸入に頼り、豊かな食生活を送ってきたレバノンが、急速な財政悪化と、ベイルート爆発事故も災いして、国民の生活が一気に暗転、大きな暴動へとつながりました。日本も他人事ではありません。

一昨年、アフガニスタンでの人道支援に取り組み、現地の武装集団の凶弾に倒れられたNGOペシャワール会の現地代表・中村哲医師は、「百の診療所より一本の用水路を」と、30年以上にわたり、医療支援に加えて、現地の井戸掘りや農業用水路の建設、自給自足による食料の安定供給など、命をかけて尽くしてこられました。その結果、アフガニスタンに緑や農地が戻り、村々は復活して豊かさを取り戻していきました。その活動を全国展開しようとしていた矢先、理不尽な事件に巻き込まれ、誠に残念でなりません。

中村医師は生前、こんな話をしておられました。日本が戦後、こんにちの豊かな生活を取り戻すことができた要因について、海外からの支援はもちろんだが、一番の要因は、日本人自身が少しの庭や空き地に種を植え、野菜を育て、飢えを凌いできたからではないかと。

本当の豊かさとは何か、平和とは何か、それはどこか遠いところにあるのではなく、私たちの足元、この大地にこそあるのではないかと思わせられました。

食糧・環境・エネルギーなど、さまざまな問題が山積しています。しかしそれらはすべて、大地の恩恵を忘れ、利益や便利の飽くなき追求のため、人類が積み上げてきたものばかりです。人間が積み上げたものは人間の手で解決していくほかありません。

WCRPでは、そうした問題の一つひとつに真摯に向き合い取り組んでいます。決して平坦な道のりではあり
ませんが、すべての人々が平和と豊かさを享受し、母なる大地の上で、笑顔で暮らしている世の中を思い描きながら、皆さまとともに力を合わせて邁進させていただきたいと存じます。

(WCRP会報2021年3月号より)

BACK NUMBER