公益財団法人 世界宗教者平和会議日本委員会

Heartful Message

こころの扉

ロシアのウクライナ侵攻により

立正佼成会学林学長・前WCRP国際副事務総長・WCRP日本委員会特別会員 杉野恭一

ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、私たちは悲痛、暗鬱、祈りの日々をおくっています。国際社会の分断は深まり、日本を含めた世界各国で、紛争の軍事的解決のための軍備増強が常態化され、加速化しています。こうした現実に対し、世界の宗教界、我々WCRPは何をなすべきなのでしょうか?

国際宗教系人道NGOはいち早くウクライナ避難民に対する緊急人道支援を行ってきました。また、ローマ教皇やWCRP国際共同会長カンタベリー大主教は、ロシア正教会のキリル総主教とオンラインで会談をもち、戦争の即時停止、人道支援、恒久平和の実現を訴えました。

キリル総主教は、府主教としてロシア正教会の国際活動を担っていた時代にWCRP国際役員を務められ、私もベンドレー前事務総長とともに、3回ほどモスクワでお会いしました。英語を話し、国際的課題を熟知した人物でした。WCRPロシア委員会(ロシア諸宗教評議会―ロシア正教、イスラーム、仏教などが参画)設立にも貢献されました。

それと同時に、キリル総主教は、今回のウクライナ侵攻を正当化する思想である「ルスキー・ミール(ロシア世界)」、すなわちウクライナのキーウをその歴史的、宗教的聖地とする大ロシア主義の信奉者でもありました。共産主義政権下で弾圧を受けてきたロシア正教がプーチン大統領のもとで事実上の国家宗教として復興し、確固たる地位を与えられます。ロシア正教会は国際的な組織であるWCRPやWCC(世界教会協議会)のメンバーとして参画しました。

戦争終結のために世界の宗教界が果たすべき役割、とりわけWCRPに課された役割を考える際に忘れてならないのは、「ルスキー・ミール」の背景に世界宗教史に関わる歴史的現在が横たわっているということです。西ローマ帝国滅亡以後、330年ローマ帝国の新首都となったコンスタンティノープル(現在のイスタンブール)は「第二ローマ」と呼ばれました。1453年にコンスタンティノープルがオスマン帝国に陥落し、正教会の中心は事実上モスクワに移され、世界の東方正教会信者2億5000万人の3分の2を占めるロシア正教会が「第三ローマ」を主張します。東西の教会は1964年、ローマ教皇パウロ6世と東方正教会のコンスタンティノープル総主教アテナゴラスが会談し、2014年に教皇フランシスコとコンスタンティノープル総主教バルソロメオス1世が統一への共同宣言に署名しました。2016年2月には、教皇フランシスコとキリル総主教が、ローマ教会と東方正教会が分裂してから1000年ぶりにキューバのハバナで会談します。

戦争終結のための外交努力には、国際諸宗教組織としてのWCRPのネットワークを駆使した諸宗教外交が必要です。WCRPは、ウクライナ正教会の独立を承認したコンスタンティノープルのエキュメニカル総主教次席エマニュエル府主教を国際共同議長に迎え、ロシア正教会キリル総主教との関係においては同じく次席のヒラリオン府主教との繋がりがあります。緊急人道支援や宗教指導者による停戦に向けた働きかけを継続するとともに、世界宗教史の歴史的現在に基づき、ギリシャ正教、ロシア正教、ウクライナ正教各派の代表を含めた緊急対話の場を設け、停戦、終戦を早期に実現するための諸宗教外交を展開することが求められています。

(WCRP会報2022年5月号より)

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