公益財団法人 世界宗教者平和会議日本委員会

Heartful Message

こころの扉

人権をあざ笑う

日本聖公会京都教区主教・WCRP日本委員会特別会員 高地 敬

1971年に書かれたあるエッセーに、1970年のWCRP第1回世界大会の宣言文が引用されていました。アメリカに住む日本人の神学者のエッセーで、その日本語訳のものだったのですが、「軍備は世界平和をおびやかし、発展を阻害し、人権をあざ笑うもの」とありました。当時からWCRPの働きが注目されていたことが分かります。ただ、第1回の宣言文を見ますと、引用された言葉そのものは見当たりませんでした。発表された宣言文を、このエッセーの著者が2行にまとめてしまったものと思われますが、宣言文の趣旨をよく伝えています。

「軍備は世界平和をおびやかす」。多くの人が、世界平和のために軍備があるのだと信じていますし、「核兵器は先制不使用だけれども、抑止力を持つと考える人も多い」と今年の新春学習会で学びました。だから軍縮がほとんど進まない。でも、私たちが信じているのは、「軍事力の完成と維持への努力は破滅への道である(宣言文)」ということでした。「剣を取るものは皆、剣で滅びる(マタイによる福音書)」。

「軍備は発展を阻害する」。ほとんどの国で、民生に回されるべき莫大な資源が、「正義」の名のもとに軍備に投入され続けています。キリストの死と復活は、死んでも生き返る模範なのではなく、私たちの全人格が新しくされていくことの保証でありました。「正義」は人間が判断するものではないことに気付く。これが私たち自身の新生の課題であります。

そして、「軍備は人権をあざ笑う」。軍隊は国民の生活を守るために存在すると言われます。災害出動はその例ですが、同時に国民を力で押さえつける国軍もありますし、国民を盾にする軍隊もあります。「我々は、戦争により生命、田畑、自由を蹂躙された人たちなど、力なくその声もかえりみられることのない大多数の人間家族に代わって語ろうとするものである(宣言文)」。

50年前に書かれた宣言文でありますが、残念ながら、現在も全く同じことが言われなければなりません。本年秋に開催される50周年では、先人の思いを確認し、私たち自身の平和への思いを新たにし、だれもが、「剣を打ち直して鋤とし、槍を打ち直して鎌とする(ミカ書)」世界を目指したいと思います。

(WCRP会報2021年6月号より)

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