公益財団法人 世界宗教者平和会議日本委員会

Heartful Message

こころの扉

非暴力という”武器”を用いた戦争

天地大学おやさと研究所教授・WCRP日本委員会平和研究所所員 金子 昭

ジーン・シャープ著『独裁体制から民主主義へ』は、とても啓発される著作である。今年1月、中見真理氏の解説により「100分de名著」(NHKテレビ)でも紹介された。シャープ氏が推奨するのは、暴力を用いない平和闘争である。そこにはあるのは、非暴力こそが〝武器〟となる逆転の発想だ。この発想の淵源は、ガンディーがインド独立のために自ら指導して行った非暴力・不服従の運動にあった。

シャープ氏は非暴力闘争のことを、様々な戦術・戦略を駆使した「暴力なき戦争」と規定した。この戦争は、暴力の代わりに、心理的・社会的・経済的・政治的な武器で闘い、その闘いも複雑で多岐にわたる。シャープ氏は、そうした非暴力行動の方法を実に198通りも示している。これらの方法は現実に即応したもので、独裁体制下の多くの国で実践され、成功例には独裁者を倒したセルビアの民主化運動、リトアニアの独立回復運動などがある。

宗教者こそ非暴力の運動の担い手である。ガンディーは非暴力(不殺生)の思想をヒンドゥー教、仏教、ジャイナ教というインドの宗教的伝統の中から汲み取り、これを植民地体制の圧制下にあって不服従運動として展開した。彼はインドの状況を知り抜いており、自らも政治的手腕を発揮して運動を巧みに進めた。でも、現実には多くの宗教者はそのように動くことが苦手であり、また精神的なリーダーにはなれても、運動のリーダーであることはなかなか難しいだろう。シャープ氏も、信仰を深め非暴力思想を強化する宗教的非暴力主義者を尊敬しつつ、その非暴力が個人的レベルに留まりがちであることに批判の眼差しを向けている。

しかし何と言っても、宗教者はあくまで宗教者であり、政治家や活動家ではないのだから、私はむしろそれは当然であると思う。だからこそ、宗教者には各界・各階層に対してたゆみなく働きかけて、非暴力の思想を人々に浸透させる使命がある。これは味方になる人々にだけではなく、独裁権力側に対しても同様にだ。その場合には、柔よく剛を制する「政治的柔術」も必要になるだろうし、国際的な圧力も時に強く求められよう。ロシアによるウクライナ侵攻の状況を鑑みれば、とくにその思いを強くする。

その意味で、WCRPの役割はますます大きくなるだろう。WCRPは、抑圧に苦しむ人々を自由と解放へと導くべく、宗教者同士の間のみならず、政界・経済界はじめ社会の様々な方面に対話と連帯を呼びかけることが期待される。

(WCRP会報2023年3月号より)

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