4月26日~27日、連続セミナーである第3期『平和と和解のためのファシリテーター養成セミナー』の第3回目が、国立オリンピック記念青少年総合センターにて開催されました。同セミナーは大学、国際機関、NGO、宗教関連団体の専門家などから、対立変容の手法について学び、足元の課題から国際レベルまで、和解をもたらす人材を育成することを目指し開講しています。
第3回目は「他者に気づき、受け止める」をテーマに、和解のスキルを身に付け、自他の他者性に気づき、受け止め方を学ぶことを目的に実施され約25人が参加。初日の開講式では、本タスクフォース責任者の山本俊正氏(元関西学院大学教授)が挨拶を述べました。
セッション1「アクティブリスニング」では村上泰教氏が講師を務めました。村上氏はワークショップを通して、話の聴き方(聞・訊・聴)には様々な型があることを示し、参加者は自分が普段人の話を聞く時に、どの様な聞き型をしているのかを確認しました。
また、アクティブリスニングには主に言葉の意味から相手の主張や思いを理解するバーバルコミュニケーション(言語コミュニケーション)と、相手の態度、声質、スピード、目線、しぐさなど、相手全体を通して理解するノンバーバルコミュニケーション(非言語コミュニケーション)の2種類の方法があると説明され、両方を意識しながら相手の思いや気持ちを受け止めていく事が大事だと学びました。
参加者からは「普段、自分は相手の話を聞いている様でいて、実はその内容をしっかりと整理できず、聞き流してしまうことがある事に気づき、自分の聞く姿勢を改めたいと思いました。」などの感想が寄せられました。
セッション2「共に生きる社会 ―隣に気づく―」では、キリスト教牧師の平良愛香さんと、性善寺ご住職の柴谷宗叔さんのお二人に登壇いただきました。ご自身のこれまでの人生を振り返られ、セクシャリティに関する体験や、キリスト教、仏教の立場から見たセクシャリティに関する知見と、その取り組みについて語っていただきました。
平良さんは沖縄出身で、ベトナム戦争時代に幼少期を過ごし、沖縄の米軍基地から戦闘機がベトナムに向かって出発していた事実を通して、沖縄米軍基地の問題は「ただ沖縄が苦しんでいるのではなく、アジアから見れば加害者の立場にいる事を知り、沖縄がこれ以上戦争を作る島になってはいけない。」と述べました。
また、セクシャリティに関する問題は単純ではなく、避けたがる問題になっているからこそ、宗教者が性の問題にしっかりと向き合っていかなければならないと指摘。「差別は優しさでは克服できず知識が必要。効率と生産性を重視する社会から、誰も排除されない社会を実現したい。」と述べました。さらに、私達の周りにいる身近な友人、知人の中にはアウティング[i]を恐れて自身のセクシャリティについて話せない方がいる可能性があることに触れ、セクシャリティの問題のみならず、「共に生きている社会の中では、自分の知らない内に備わっている社会的な有利性、差別性があり、抑圧者側にいる事もあることに気づいていかなければならない。」と教えてくれました。
続いて登壇された柴谷さんは、戸籍上、男性として生まれましたが、小学生の頃からご自身のセクシャリティに違和感を覚えながら過ごしました。大学ご卒業後は出版社へ就職しましたが、男性社会の職場だったので男性を演じ続ければなりませんでした。神戸支局に務めていた際、阪神・淡路大震災で被災されたことをきっかけに会社を辞めて高野山にて得度されました。
その後、僧侶の戸籍とも言える僧籍簿も性別変更され、セクシャリティに関する悩みを相談できる場所を作る為に性善寺を建てました。仏教の観点から見た性別変更について、法華経の中に出てくる「変成男子」について言及し、「『変成男子』は当時、穢れのある存在と思われていた女性が、男性になったことで成仏できた、という場面であるが、私はこのことを『女性が男性になっても(性別変更しても)成仏できる』と捉えています。」と述べた。さらに、性善寺が「性的マイノリティの方々だけが訪れるお寺ではなく、お参りに来られる方々やお遍路さん等、様々な方々に門戸を開いています。多様性を認める場を作り、共にこれから社会に広めていきましょう。」と参加者に投げかけました。
翌27日行われたセッション3「和解と調停の理論、実践」では、第2期修了生で、第3期受講生でもある飯野真理子氏が講師を担いました。講義の冒頭は仲介・調停とは何か、Mediatorの在り方の基礎を説明し、交渉とは相互に受け入れられる妥協点に達し、達成可能な結果に調整するプロセスであると解説しました。
また、Mediatorは当事者同士の本当の願い・ニーズを明らかにして、お互いの可能な合意ゾーンである「共有ゾーン」を探すことが大事だと述べ、参加者は自分の日常生活で実際に起きたできごとを振り返る時間や、対立が起きたケースのロールプレイングを通して、自分の感情とニーズを捉える練習をしました。参加者からは「ロールプレイを行うことで、自分が当事者として体験することができ、平和構築の技術を身につけることの重要性を感じることができました。」と感想が寄せられました。
セッション4「和解と調停/実演」では松井ケテイ氏が講師を務め、セッション3のまとめ、メディエーション(仲介)に必要な姿勢や、当事者同士の感情をつかむ重要性、そして相手を尊重するには他者を知り、他者の苦難を自分のことのように感じる必要があることを確認しました。その後は実演として、高齢者体験キットを用いて高齢者疑似体験を実施しました。参加者からは「高齢者の立場を体感でき、良い機会だった。」などの感想が寄せられ、「他者に気づき、受け止める」テーマを深めるきっかけとなりました。
[i] 本人の了解を得ずに、その人のセクシュアリティなどを第三者に暴露すること。本人のプライバシーの侵害になるだけでなく、居場所や生きるすべを失う危険性にもつながる。(平良愛香氏「セクシュアリティ用語集25年4月版」参照)