公益財団法人 世界宗教者平和会議日本委員会

INFORMATION

お知らせ
2025.9.08
学習・セミナー その他

アジア太平洋女性信仰者ネットワーク 気候変動セミナー 第1回報告

2025年7月30日-アジア太平洋女性信仰者ネットワーク(APWoFN)のフラッグシップ・プロジェクトとして、第1回気候変動オンラインセミナーが開催されました。本セミナーは「Transition from Fossil Fuels to Renewable Energy(化石燃料から再生可能エネルギーへの移行)」をテーマに行われ、アジア太平洋各国から多くの参加が集いました。

開会と祈り

アジア宗教者平和会議事務局により開会が宣言され、APWoFN委員であるディーパリ・バノット博士(インド委員会メンバー)が大地への感謝と祝福を込めた祈りを捧げました。続いて、APWoFN事務局長の河田尚子氏(WCRP日本委員会女性部会副部会長/アル・アマーナ代表)より、猛暑が続く日本の現状と化石燃料依存の課題が共有され、宗教者ネットワークとしての役割強化の重要性が語られました。

基調講演①

ティム・バックリー氏(Climate Energy Finance, オーストラリア)

プロフィール
ティム・バックリー氏はオーストラリア・シドニー在住で、Climate Energy Financeのディレクターを務めています。長年にわたり再生可能エネルギーへの移行に伴う金融的なメリットと現実を分析してきました。Climate Energy Financeは、産業革命以来最も大規模な経済変革である「化石燃料からクリーンエネルギーへの移行」について、市民の利益に資する金融分析を行うために設立されました。

講演概要
バックリー氏は、国際司法裁判所(ICJ)が発表した気候危機に関する勧告的意見や、ニューサウスウェールズ州裁判所が石炭鉱山拡張計画を却下した判決を紹介しました。これらは希望を与える動きではあるが、化石燃料産業は依然として強力で、気候科学を無視し、コストを社会全体に押し付け続けていると指摘しました。

その上で、「勝利にはまだ遠いが、希望を持つべき理由」として金融・技術・政策の観点から以下の点を挙げました。

  • 再生エネルギーと蓄電池の急成長
    • 風力発電は過去25年間で年平均13%成長、太陽光は27%の成長率で風力を上回った。
    • 蓄電池市場は前年比84%拡大。バッテリーの進化は電力系統・輸送システムの双方を変革しており、再エネの不安定さを克服する鍵となっている。
  • 中国の躍進
    • 2025年前半に導入された新規電力容量の91%が再生エネルギー。半年で212GWの太陽光を設置し、これはオーストラリア全電力の3倍に相当。
    • 中国は依然として石炭火力も建設しているが、柔軟稼働型で稼働率を抑え、再エネの変動を補完するために運用している。
    • 経済性だけでなく「エネルギー安全保障(輸入化石燃料依存からの脱却)」が最大の動機になっている。
  • 世界の成功事例
    • カリフォルニアでは、昼間の太陽光を蓄電池に貯め、夜間ピーク需要の3分の1を供給。電力価格を押し下げる効果も発揮している。
    • 中国は電気自動車の世界市場を牽引し、2025年には世界販売の3分の2を占める見込み。充電インフラや海外工場の展開も進む。
    • パキスタンは過去2年間で年間10〜15GWの太陽光を新設し、2024年には電力容量を40%増加。大部分が屋根上太陽光で、補助金なしで実現。
    • 南アフリカも同様に急速に屋根上太陽光が普及し、土地利用や送電網増設の課題を回避している。
  • 経済性と政策課題
    • 国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の最新データによれば、新規電源コストは太陽光が化石燃料の41%安、風力は53%安。
    • それにもかかわらず化石燃料投資が続くのは「民主主義の歪み」と「政府・産業の腐敗」によるものであり、根本的な解決には「炭素価格の導入」が必要。
    • バックリー氏は、次回COP31(オーストラリア開催が有力)で炭素価格の国際的導入を主張すべきだと提案しました。

結論
バックリー氏は「世界は依然として化石燃料産業の影響下にあるが、風力・太陽光・蓄電池・EVの急成長や中国・パキスタンなどの実例は、私たちに確かな希望を与えている」と結びました。特に「屋根上太陽光と蓄電池の組み合わせ」は、農地利用や送電網増強を不要にし、途上国でも実現可能なモデルであることを強調しました。

 

基調講演②

シェリル・ドゥガン氏(Laudato Si’ Movement, フィリピン)

プロフィール
シェリル・ドゥガン氏はフィリピン・マニラ在住で、Laudato Si’ Movementのアジア太平洋地域ディレクターを務めています。同運動のリーダーシップメンバーとして、教皇フランシスコの回勅『ラウダート・シ』の精神に基づき、気候危機と信仰者の役割について発信してきました。また、化石燃料不拡散条約(Fossil Fuel Non-Proliferation Treaty, FFNPT)の推進に積極的に取り組んでいます。

講演概要
ドゥガン氏は、Laudato Si’ Movementが世界900以上のカトリック団体と約2万人のリーダーによって構成され、地球という「共通の家」を守る使命を担っていることを紹介しました。

彼女は、気候変動が「遠い未来の脅威」ではなく、すでに干ばつ、洪水、猛暑などによって人々の暮らしを破壊し、食糧不安や移住を引き起こしている現実であると強調しました。最も被害を受けているのは貧困層や小島嶼開発途上国(SIDS)、先住民族であり、これは「気候危機であると同時に道徳的危機」であると位置づけました。

続いてアジア太平洋地域の「化石燃料ジレンマ」を提示しました。

  • 石炭・石油・ガスなどの化石燃料は、温室効果ガス排出の約75%を占める。
  • アジアは気候危機に最も脆弱でありながら、依然としてエネルギーの80〜85%を化石燃料に依存している。
  • 多くの政府が依然として化石燃料産業に補助金や許可を与え、拡大を続けている。

この状況を克服するには「明確な政治的意思と勇気ある政策改革」が不可欠であり、各地域の一つひとつの行動が希望と癒やしにつながると語りました。

化石燃料不拡散条約(FFNPT)

ドゥガン氏は、2020年に始まった市民社会主導のキャンペーン「化石燃料不拡散条約」について説明しました。この条約は核不拡散条約をモデルとし、パリ協定が「需要(使用)」に焦点を当てているのに対し、「供給(生産)」に切り込む点で新しい試みです。

条約は3本柱で構成されています。

  1. 不拡散 ― 新規の化石燃料開発を禁止し、政府の補助金や投資を停止。
  2. 段階的廃止 ― 科学的根拠に基づき、公正かつ計画的に化石燃料生産を削減。特に低所得国への支援を重視。
  3. 公正な移行 ― 労働者や地域社会、化石燃料依存国を守りながら再生可能エネルギーへの移行を進める。

この条約は現在、135の都市・自治体、数百人の政治家、3000人以上の科学者、そしてWHOを含む多くの団体から支持を得ています。アジア太平洋では7名のカトリック司教(FABCを含む)が賛同し、フィリピン司教協議会は政府に対して初めて正式に紹介しました。

信仰者にできる行動

  • 条約について学び、地域社会で共有する。
  • 「Faith Letter」への署名を通じて賛同を広げる。
  • 脱化石燃料投資を進め、地域の再エネを支援する。
  • 政策提言を行い、新規化石燃料事業に反対し、公正な移行を推進する。
  • 祈りと信仰に基づく勇気ある実践を続ける。

最後にドゥガン氏は「課題は緊急だが希望はある。私たちは常に方向を変え、解決のために行動することができる。祈りと行動を通じて、この危機を新しい始まりへと変えることができる」と結びました。

 

対話と実践の共有

発表後の対話では、インド委員会のディーパリ・バノット博士が「人類は地球の所有者ではなく受託者である」と述べ、道教協会の張仲陽氏が中国の再エネ導入事例を紹介しました。オーストラリア委員会のスー・エニス氏は「信仰コミュニティこそが署名拡大を推進すべき」と提案し、日本・ネパール・インドネシアからも現地の実践や意欲が共有されました。

まとめ

セミナーの最後に、各国の礼拝所での再生可能エネルギー導入に向けた検討や、化石燃料不拡散条約への賛同署名の推進、技術・知識・資金を持つ国からの支援強化していくことの重要性が確認されました。また、今後第2回、第3回セミナーをAPWoFNとして実施することが発表されました。

WCRP日本委員会は、このフラッグシップ・プロジェクトの一翼を担い、アジア太平洋地域のネットワークを通じて学びと実践を共有していきます。その具体的な一歩として、10月10日に気候危機タスクフォース主催の学習会(テーマ:「いのちのつながりの中で、共に祈り、共に立つ」〜調和と再生の選択を〜)を開催し、本セミナーで得られた知見をさらに深め、日本からも積極的な行動につなげていきたいと思います。

学習会詳細:https://www.wcrp.or.jp/information/climate-change-study-session-cop30/