2025年7月30日-アジア太平洋女性信仰者ネットワーク(APWoFN)のフラッグシップ・プロジェクトとして、第1回気候変動オンラインセミナーが開催されました。本セミナーは「Transition from Fossil Fuels to Renewable Energy(化石燃料から再生可能エネルギーへの移行)」をテーマに行われ、アジア太平洋各国から多くの参加が集いました。
アジア宗教者平和会議事務局により開会が宣言され、APWoFN委員であるディーパリ・バノット博士(インド委員会メンバー)が大地への感謝と祝福を込めた祈りを捧げました。続いて、APWoFN事務局長の河田尚子氏(WCRP日本委員会女性部会副部会長/アル・アマーナ代表)より、猛暑が続く日本の現状と化石燃料依存の課題が共有され、宗教者ネットワークとしての役割強化の重要性が語られました。
ティム・バックリー氏(Climate Energy Finance, オーストラリア)
プロフィール
ティム・バックリー氏はオーストラリア・シドニー在住で、Climate Energy Financeのディレクターを務めています。長年にわたり再生可能エネルギーへの移行に伴う金融的なメリットと現実を分析してきました。Climate Energy Financeは、産業革命以来最も大規模な経済変革である「化石燃料からクリーンエネルギーへの移行」について、市民の利益に資する金融分析を行うために設立されました。
講演概要
バックリー氏は、国際司法裁判所(ICJ)が発表した気候危機に関する勧告的意見や、ニューサウスウェールズ州裁判所が石炭鉱山拡張計画を却下した判決を紹介しました。これらは希望を与える動きではあるが、化石燃料産業は依然として強力で、気候科学を無視し、コストを社会全体に押し付け続けていると指摘しました。
その上で、「勝利にはまだ遠いが、希望を持つべき理由」として金融・技術・政策の観点から以下の点を挙げました。
結論
バックリー氏は「世界は依然として化石燃料産業の影響下にあるが、風力・太陽光・蓄電池・EVの急成長や中国・パキスタンなどの実例は、私たちに確かな希望を与えている」と結びました。特に「屋根上太陽光と蓄電池の組み合わせ」は、農地利用や送電網増強を不要にし、途上国でも実現可能なモデルであることを強調しました。
シェリル・ドゥガン氏(Laudato Si’ Movement, フィリピン)
プロフィール
シェリル・ドゥガン氏はフィリピン・マニラ在住で、Laudato Si’ Movementのアジア太平洋地域ディレクターを務めています。同運動のリーダーシップメンバーとして、教皇フランシスコの回勅『ラウダート・シ』の精神に基づき、気候危機と信仰者の役割について発信してきました。また、化石燃料不拡散条約(Fossil Fuel Non-Proliferation Treaty, FFNPT)の推進に積極的に取り組んでいます。
講演概要
ドゥガン氏は、Laudato Si’ Movementが世界900以上のカトリック団体と約2万人のリーダーによって構成され、地球という「共通の家」を守る使命を担っていることを紹介しました。
彼女は、気候変動が「遠い未来の脅威」ではなく、すでに干ばつ、洪水、猛暑などによって人々の暮らしを破壊し、食糧不安や移住を引き起こしている現実であると強調しました。最も被害を受けているのは貧困層や小島嶼開発途上国(SIDS)、先住民族であり、これは「気候危機であると同時に道徳的危機」であると位置づけました。
続いてアジア太平洋地域の「化石燃料ジレンマ」を提示しました。
この状況を克服するには「明確な政治的意思と勇気ある政策改革」が不可欠であり、各地域の一つひとつの行動が希望と癒やしにつながると語りました。
化石燃料不拡散条約(FFNPT)
ドゥガン氏は、2020年に始まった市民社会主導のキャンペーン「化石燃料不拡散条約」について説明しました。この条約は核不拡散条約をモデルとし、パリ協定が「需要(使用)」に焦点を当てているのに対し、「供給(生産)」に切り込む点で新しい試みです。
条約は3本柱で構成されています。
この条約は現在、135の都市・自治体、数百人の政治家、3000人以上の科学者、そしてWHOを含む多くの団体から支持を得ています。アジア太平洋では7名のカトリック司教(FABCを含む)が賛同し、フィリピン司教協議会は政府に対して初めて正式に紹介しました。
信仰者にできる行動
最後にドゥガン氏は「課題は緊急だが希望はある。私たちは常に方向を変え、解決のために行動することができる。祈りと行動を通じて、この危機を新しい始まりへと変えることができる」と結びました。
発表後の対話では、インド委員会のディーパリ・バノット博士が「人類は地球の所有者ではなく受託者である」と述べ、道教協会の張仲陽氏が中国の再エネ導入事例を紹介しました。オーストラリア委員会のスー・エニス氏は「信仰コミュニティこそが署名拡大を推進すべき」と提案し、日本・ネパール・インドネシアからも現地の実践や意欲が共有されました。
セミナーの最後に、各国の礼拝所での再生可能エネルギー導入に向けた検討や、化石燃料不拡散条約への賛同署名の推進、技術・知識・資金を持つ国からの支援強化していくことの重要性が確認されました。また、今後第2回、第3回セミナーをAPWoFNとして実施することが発表されました。
WCRP日本委員会は、このフラッグシップ・プロジェクトの一翼を担い、アジア太平洋地域のネットワークを通じて学びと実践を共有していきます。その具体的な一歩として、10月10日に気候危機タスクフォース主催の学習会(テーマ:「いのちのつながりの中で、共に祈り、共に立つ」〜調和と再生の選択を〜)を開催し、本セミナーで得られた知見をさらに深め、日本からも積極的な行動につなげていきたいと思います。
学習会詳細:https://www.wcrp.or.jp/information/climate-change-study-session-cop30/