公益財団法人 世界宗教者平和会議日本委員会

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2023.9.14
提言・リリース

声明「G7広島サミットを振り返って」

(公財)世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会声明
「G7広島サミットを振り返って」

WCRP日本委員会は、本年5月15日、広島で開催された主要7カ国首脳会議(G7サミット)に対する、『G7サミットに向けた宗教者提言〜「ヒロシマの心」が導く持続可能な平和をめざして〜』を総理官邸にて岸田文雄総理に直接手渡し、世界の諸課題の解決に向けた宗教者の要望を伝えた。

この度のサミットを振り返ると、G7サミットが広島で開催され、7カ国首脳が原爆慰霊碑で祈りを捧げ、原爆資料館を見学し、被爆者の方々と対話を実現したことは、歴史的に意義深いことであった。また、G7首脳が原爆資料館で記帳を行い、それが個人的な願いであっても、平和のメッセージを世界に向けて発信したことには、一筋の光を見ることができた。それは広島の地で、被爆の実相を知ったからこそであり、「ヒロシマの心」を受け止めたものと理解する。このことによって世界の関心を広島に向けさせ、核兵器廃絶への機運をより高めたのは確かである。

WCRP日本委員会が岸田総理に提言文を手交した時にも、総理が強調して言及していたのが「法の支配」であった。ロシアによるウクライナ侵攻によって国際社会における原則やルールが揺らいでいる現状を考慮すると、政治的な意味合いが多分にあるにせよ、「法の支配」の厳守は時宜に即したテーマであったといえよう。このことは、「大小を問わず全ての国の利益のため、国連憲章を尊重しつつ、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持し、強化する」と首脳宣言で示されることとなった。

私たちが特に注目するのは、その宣言に、「大小を問わず全ての国の利益のため」という言葉が用いられたことである。今回のサミットでは、G7国以外にも多様な国が招待され、サミット期間中の半分の時間がグローバルサウスとの関係作りに費やされた。WCRP日本委員会は上記「提言」の中で、気候変動、SDGs、経済格差の問題にG7が責任を持って取り組むように要請したが、その際、強調したのがグローバルサウスとの連帯の強化である。今回のサミットで、G7で初めてとなるグローバルサウスとの共同の試みがなされたことは、評価に値する。

しかし残念ながら、私たちの提言文に関連して、いくつかの課題があることも指摘せざるを得ない。第一に、「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」において核兵器廃絶への意志が全く見られず、むしろ核抑止論を正当化し、核兵器保有の維持を被爆地で認めてしまったことである。核兵器の悲惨さを実感しながらも、核兵器の存在を認めるという矛盾した姿勢を見せてしまったことに、遺憾の意を表せざるを得ない。第二に、ウクライナ情勢に関して、ウクライナへの軍事支援とロシアへの制裁強化の議論に終始したことで、敵味方を明確にし、対立をさらに深める流れになったことである。戦争終結への大局的な道筋や事態解決に向けた対話や和解への努力に関するメッセージが見えなかったことは、残念である。力と力の対立を強めるだけでなく、G7として停戦や平和構築に向けた外交努力を忘れてはならない。第三に、非倫理的とも言える異常な経済格差の是正に向けた、具体的なコミットメントの表明がなかったことである。「大小を問わずすべての国の利益」を体現するならば、G7は当事者意識を持ち、債務再編などの国際的な経済対策に積極的な姿勢を見せるべきである。第四に、信教の自由が世界的に脅かされている現状に関する議論が、全くなかったことである。信教の自由、さらには表現の自由や言論の自由といった基本的人権の保護に関するG7の関心は、十分に示されたとは言い難い。

このサミットにおいて貫かれたテーマである「法の支配」は、今後、G7の理念の一つの軸となるであろう。そうであるならば、核兵器を包括的に廃絶に導く厳然とした国際法である核兵器禁止条約への尊重の姿勢を示すべきである。

「他者と自己の幸福は本質的に共有されるものであり」、すべての人々が「つながりあういのち」で存在しているという信念を持つ私たちWCRPは、ただ理想を説いているのではない。人類が滅亡の淵に近づかないように、神仏の教えに照らし、人間の本来のあるべき姿を示し続けたいと願っているのである。

WCRPは引き続き、G7広島サミットで合意した内容が世界の恒久平和を願う「ヒロシマの心」の実現に着実につながるよう、G7各国の動向に関心を寄せ続け、かつ私たち宗教者自身の平和に対する責務を果たしていく所存である。

2023(令和5)年9月13日
(公財)世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会

G7広島サミットを振り返って(PDF)