公益財団法人 世界宗教者平和会議日本委員会

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2025.7.07
学習・セミナー その他

平和大学講座「食卓から地球の平和と人類の共存を考える」報告と提言

2025年3月14日、「食卓から地球の平和と人類の共存を考える」をテーマに、WCRP日本委員会主催の平和大学講座が開催されました。食をめぐる諸問題の研究者や、国連FAO駐日事務所所長、およびキリスト教、イスラーム、仏教の信仰者の方々が集い、「食」にかかわる危機的状況や「食」の安全保障の問題、ひいてはこれらの問題と地球社会の平和の問題について討論しました。

地球社会の平和について考える時、私たちは国際政治や世界の地域紛争など、大きな政治的問題に目が向きがちですが、人間性の回復という観点から見た時、まず私たちの日々の暮らしから見直していくことも必要ではないでしょうか。争いのない世界とは、誰もが安全な食べ物を不足なしに食べられる世界でもあります。その意味で、2024年度の平和大学講座では、私たちの食卓から平和の問題を考えてみました。適切な食の習慣こそが、意外と豊かな人間性を養う秘訣になるかもしれません。

世界の諸宗教は、それぞれ独自の食文化を有しています。仏教は菜食を勧め、イスラームではハラル食を推奨してきました。また、この食物は食べてはいけないという食の禁忌(タブー)も見られます。こうした宗教に基づく食文化には、時代を超えて普遍的な意味を持つ先人の知恵が込められています。

何より大切なのは自らの健康でしょう。誰もが健康的に生きていくことができるならば、それは必ずや地球の平和も人類の共存も可能にする大きな土台となるはずです。「食」をめぐるさまざまな問題が露見してきた現代において、まずは私たちの家庭の食卓を見直し、そして今一度、自らの食習慣を見直しつつ人間性について考え直し、これを地球社会の平和の問題につなげたいと思います。なお、今回の平和大学講座のテーマは、WCRP日本委員会平和研究所の2024年度研究テーマ「未来の地球社会の平和を目指して―人間性の回復を通して―」を踏まえたものです。

今回の平和大学講座では、まず基調発題を、東北大学大学院農学研究科名誉教授でWCRP平和研究所所員の齋藤忠夫先生からいただきました。その後のパネルディスカッションでは、国連食糧農業機関(FAO)駐日事務所所長の日比絵里子先生、平和研究所所長で東洋大学名誉教授・元学長の竹村牧男先生、そして平和研究所所員で拓殖大学イスラーム研究所所長の森伸生先生に発表していただきました。これら先生方のご講演・ご発表を基に、世界の食料危機をどう乗り越え、世界の食料安全保障を維持し、「地球の平和と人類の共存」を達成するために私たちができることを、以下のようにまとめましたのでご報告申し上げ、またこれをもって私どもの平和への提言といたします。

一 食をめぐる諸問題と課題

「世界の食料安全保障と栄養の現状」として、世界の11人に1人、7億人が飢えに苦しんでいる、全世界で生産されている食料は年間約40億トンあるが、これを全人口に届けることのできるシステムを開発する。

  1. 生産される食料の3分の1が、さまざまな理由から無駄になっていることを把握し、先進国での消費者の買い過ぎ、飲食店での頼み過ぎを抑制し、食品の大量な廃棄を減少させる。
  2. 途上国では、生産者が収穫した作物をうまく管理できるようにし、道路や橋などのインフラ整備を整え市場ひいては多くの人々に食料が届くまでの輸送手段を確保し、上流で食料が傷んでしまうことを防ぐ。
  3. 食料を無駄なく効率的に利用することは、社会、経済、環境面での持続可能性を実現させる。
  4. 食品ロスの削減は、食料システムで排出される温室効果ガスを減らし、地球温暖化への影響を減らし、食料生産が受ける影響も減らす。
  5. 食品を最終消費の段階で無駄にすることは、生産段階だけでなく、加工や輸送にかかったエネルギーもすべて無駄になることに目を向け、廃棄処理を含め、食品廃棄による環境への負荷を減少させる。
  6. 食料の安定確保のために、森林破壊など土地利用のあり方に危機感を共有し、SDGsの目標達成への協力を強化する。
  7. 人口増加や所得の伸びに伴う新興・途上国での食料需要の増大に対応できるよう研究し、実践する。

二 食育の重要性

すべての段階における教育は、「世界の食の平和と人類の共存」構築上で重要な意味を持っている。

  1. a) 「食文化の歴史と現代の事実」に関する課題を小・中・高の学校カリキュラムに盛り込む。
  2. b) 学校給食を通した食育教育の普及を促進する。

三 政府や市民社会等の役割

  1. a) 政府は、食の問題を通じての「地球の平和と人類の共存」の促進と強化において、重要な役割を担っている。このため、①森林破壊を招いた農産品を規制する措置を導入する。②農林業やその他の土地利用から排出される温暖化ガスは世界全体の排出量の約4分の1を占めており、農業・食料生産システムを組み込んだ気候変動対策を実践する。

b)宗教者と市民社会は、食の問題を通じての「地球の平和と人類の共存」の十分な発展に参画する必要がある。

c)メディアの教育的で知的な役割は、食の問題を通じての「地球の平和と人類の共存」の促進に寄与する。

d)両親、教師、政治家、ジャーナリスト、宗教組織及び団体、有識者、科学者、哲学者、農業関係者、健康と人道活動を行う者、ソーシャルワーカー、非政府組織、およびすべてのレベルにおける管理職クラス等は、食の問題を通じての「地球の平和と人類の共存」の促進に重要な役割を担う。

四 国連の役割

  1. 食の問題を通じての 「地球の平和と人類の共存」を促進し強化し、この課題を世界中に広め実現するため、引き続き重要な役割を担い続ける。
  2. FAOが行っている生産、流通、消費、廃棄への取り組みに加え、その周辺に位置する社会的問題としての不平等、環境、生物多様性、水資源などを含めて「農業食料システム」としてとらえ、その改善への取り組みの促進と強化を続ける。
  3. 人口増加や所得の伸びに伴う新興途上国での食料需要の増大に対応できるよう研究し知見を広め、実践に必要なキャパシティ(能力)の向上を図り取り組みを後押しする。
  4. 紛争下にある国では飢餓人口および栄養不良人口の率が高い。飢餓の要因としては、紛争、気候変動、および異常気象現象と経済ショックや経済停滞が挙げられる。これらの問題解決と地球社会の構造革新の強化を実践する。

五 宗教および宗教者の役割

  1. 食の問題を通じての「地球の平和と人類の共存」を促進強化し、この課題を世界中に広め実現するため、引き続き重大な使命を担い続ける。
  2. いのちに直結する食物の宗教的重みをWCRP日本委員会内外に広く啓蒙するとともに、各教団はさまざまなネットワークを通じて、食品ロス軽減の具体的実践を支援し、また信徒等の適切なライフスタイルを指導することを強化する。
  3. 食品ロスを縮減するする社会システムへの変革に、地産地消等の地域主義を重視し、個々の神社・寺院・教会等が地域のセンター的役割を果たしつつこの問題に貢献する。教団はそのノウハウを指導する。
  4. 「食事の宗教的意義」として、食品の生産者への感謝、食品の保存や流通過程の担当者への感謝、自己の身心そのものが神仏からの賜物と恵みであることへの感謝などを自覚し、さらに自己が食事を摂るに値するかも省み、自己自身を見つめる。このような実践により、食品ロスを減少する。
  5. 食品ロスの問題に取り組むためには、その具体的な施策と同時に、食事ということに関する「哲学」が根本にあるべきである。宗教界としては、宗教の立場に基づく「食の哲学」をもう一度、自覚し直し、普遍的なものとした上で、一般社会へ訴えていくことが望まれる。
  6. 神人共食および他者との平等な共食の喜びと、そのことが実現しないことへの悲しみに思いを馳せ、食の平等の実現を祈り、また実現に向けて実践する。一般市民は食事を通じて、社会の仕組みへの洞察を深め、また家庭においては、他者のお蔭、もったいなさの認識、労働の重要性等にともに思いをはせ、親子等家族同士の絆の深化、宗教的環境の創出を実現することが大切である。
  7. イスラームの食理念は、宗教的戒律を超えた深い考え方や価値観を内包しており、人間と神、人間同士、そして自然との調和を築くための指針となっている。その理念は、3つの柱(神への感謝と従順、社会的連携と倫理、自然との調和)に基づいており、個人、共同体、そしてグローバル社会における食の重要な役割を理解し、共有する。
  8. イスラームの教えでは、自然は神の創造物であり、人間にはそれを利用する権利とともに、保護する責任が課せられている。資源の浪費を禁じるクルアーンの教えに基づき、持続可能な消費が推奨されており、食品ロスの削減や環境に優しい生産方法が重視される。このような調和の理念は、持続可能な社会を構築するための指針として、現代社会にも応用できよう。

以上、2024年度の平和大学講座の討論内容をご報告致します。このような提言内容にご賛同される方は、ぜひそれぞれの一隅において具体的な実践に取り組んでいただきたいと祈念申し上げます。

 

2024年度WCRP日本委員会平和大学講座

パネルディスカッションコーディネーター 、松井ケティ(WCRP日本委員会理事)