
2025年11月19日(水)、世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会・人身売買禁止タスクフォースは、参議院議員会館において「人間の尊厳を考える 円卓会議2025」を開催しました。
本セミナーでは、政治・メディア・労働・宗教・市民社会の多様な立場から、近年深刻化する人身売買および搾取の実態に目を向け、被害者を生み出さない社会づくりに向けた課題を共有しました。
今年11月6日に大きく報道された、12歳のタイ出身の少女の人身売買被害事案にも触れながら、宗教者が果たすべき役割や、政治・行政との連携、そしてメディアによる発信の責任について、活発な議論が行われました。
参加者からは、「多分野が協働する必要性を強く感じた」「宗教コミュニティとしてやるべきことが具体的に見えてきた」などの声が寄せられ、改めて“人間の尊厳を守るための包括的な取り組み”の重要性が確認されました。
参加者一同により「人身売買禁止に向けたアピール2025」が採択されました。
本アピール文では、11月6日に明るみに出たタイ国籍12歳少女の性搾取事件を受け、日本国内における人身売買の深刻な実態と、宗教者をはじめ社会全体が担うべき責任について強く訴えています。
WCRP日本委員会は、宗教・政治・メディア・労働・市民社会が連携し、声なき声に耳を傾け、「誰一人取り残さない」社会の実現をめざして、今後も信頼のネットワークを強化してまいります。
以下に、採択されたアピール文全文を掲載いたします。
11月6 日、日本の人身売買の深刻な状況を浮き彫りにする事件が明るみになった。東京都内の違法なマッサージ店で性的接客を強いられていたタイ国籍の12 歳の少女が人身売買の被害者として保護された。12 歳の少女は約1か月で60 人以上の接客をさせられ、東京出入国在留管理局に一人で駆け込み助けを求めたことで、マッサージ店の経営者らが逮捕された。
このことは、日本における人身売買の実態が非常に深刻であり、その対策が不十分であること、人身売買の入口は身近にあること、人身売買に対する啓発の不足、そしてこの状況を看過している市民一人ひとり、とりわけ宗教者としての内省の必要性を示している。人身売買は、決して遠い国や特殊な状況の中で起きている問題ではない。タイ国籍の少女の勇気ある行動によって、性的搾取の問題が明らかにされたが、これは氷山の一角にすぎない。昨今、いわゆる『JK ビジネス』や『パパ活』といった言葉に置き換えられ、手軽にアクセスしやすい印象がもたらされている。性的搾取の構造が軽視され、「被害者の自業自得、自己責任」とまとめられ、被害や加害が矮小化される傾向すらある。
人身売買の撲滅に向けて官民が啓発を進めているが、人身売買の被害に遭っていることを被害者に自覚させないよう管理・支配する手口がより巧妙になっている。2025 年2 月には、日本人の男子高校生がオンラインゲームを通じて知り合った人物から「稼げる仕事がある」と誘われタイに渡航後、ミャンマーに連れられ特殊詐欺に加担させられる事件が発覚した。
国際的な組織犯罪のネットワークが急速に広がり、日本も犯罪の温床となっている現実を突きつけられている。日本の現状は、2025 年米国国務省の『人身取引報告書』において「人身取引撲滅のための最低基準を十分には満たしていない」と6年連続で指摘されている。こうした問題の原因には、貧困、虐待、いじめ、家庭内での居場所がないこと等に付け込まれて被害に遭う人が多く、繰り返し被害に遭う人もいる。
あらゆるいのちの平等なる尊厳性を固く信じる宗教の連合体であるWCRP 日本委員会は改めて、この日本の現状に対し深い憂慮とともに、大きな責任を痛感する。人身売買は、いのちの尊厳と自由を奪い、弱き立場にある人々を搾取の連鎖へと追いやる非道な行為である。私たちは、実際にこの問題に取り組む宗教者から、宗教者としての責務とそれぞれの宗教信念を学んできた。
例えば、仏教における宗教者の信念とは、すべてのいのちが等しく仏性を宿し、苦しむ者の声を聞き、慈悲をもって寄り添い、救うという誓願である。キリスト教においては、人類は皆兄弟であるという隣人愛の精神に立ち、その本質的な価値を否定しうる人身売買を否定し、自他の人間性を取り戻し、推進するという行為は、救いの使命の延長にあるとも考えられる。イスラームでは、すべての人間がアッラーから尊厳を与えられ、公正に扱われる権利を有するという確固たる確信に依拠し、人々に安らかな生活をもたらすためのジハード(最大の努力)の必要性を説いている。
宗教者は、その教義や伝統を異にしつつも、すべての人間が固有かつゆるぎない尊厳を具え、いかなる理由によってもこれが侵されてはならないという確固たる信念を共有している。この普遍的信念に立脚し、私たちは、人間を手段として扱い尊厳を踏みにじる人身売買の実態を断じて看過することはできない。
WCRP日本委員会は、創設以来一貫して、すべての人々の平和と安寧の実現を願い、そのための祈りと行動を重ねてきた。本日『人間の尊厳を考える円卓会議2025 』において私たちは、人間の尊厳という観点から人身売買の撲滅のため、政治家、メディア、労働界、宗教界、一般市民が一堂に参集し、『信頼のネットワーク』を強化する重要性を再認識した。とりわけ、人身売買の問題に取り組むために、以下の行動が決定的に重要である。
①WCRP 日本委員会加盟教団ならびにWCRP 国際ネットワークに対する意識啓発活動
②WCRP と政府機関、国際機関、人権擁護に関わるNGO やメディア、労働界、市民団体等との連帯
③人身売買被害の社会的認知向上のためのアドボカシー活動
④WCRP の社会的資源を活かした犠牲者に対する精神的・物的支援
⑤人身売買への当事者意識の醸成を促進するための対話と学びの場の創出
私たちは、声なき声に耳を傾け、誰一人として取り残されない世界に向けて祈りと対話と行動を捧げることを誓い、人身売買撲滅とあらゆるいのちの平等なる尊厳性が尊重される社会の実現に寄与して参ります。
2025 年 11 月 19 日