公益財団法人 世界宗教者平和会議日本委員会

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2023.5.15
提言・リリース

G7サミットに向けた宗教者提言〜「ヒロシマの心」が導く持続可能な平和をめざして〜

G7サミットに向けた宗教者提言〜「ヒロシマの心」が導く持続可能な平和をめざして〜

78年前、1発の原子爆弾によって広島の街は廃墟と化し、おびただしい数の無辜の人々が犠牲になった。原爆死没者慰霊碑に刻まれている「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」との碑文は、すべての人びとが原爆犠牲者の冥福を祈り、戦争という過ちを再び繰り返さないことを誓うものである。同時に、過去の悲しみに耐え、憎しみを乗り越え、全人類の共存と繁栄を願い、真の世界平和の実現を祈念するという「ヒロシマの心」を現している。

2023年5月10日、私たち宗教者は、被爆者や各国の平和を希求する市民社会の代表者とともに、広島の原爆爆心地から1.2kmにある世界平和記念聖堂に集い、G7広島サミットに向けて、私たちの提言を表明する「宗教者による祈りとシンポジウム」を開催した。

まずもって私たちは、G7サミットが広島で開催されるに際し、G7サミット参加国指導者に、この「ヒロシマの心」の真意を深く胸に刻んでサミットに臨むよう、心から切望する。これを除いては、いかなる有益な会合もなし得ない。ゆえに、「ヒロシマの心」を国際政治の場において、着実に具現化することを強く要請する。

そのために、平均年齢84歳を超え、心身に深い傷を負いながら「再び被爆者をつくらない」「戦争をやってはいけない」という信念で、人道主義にもとづいた核兵器廃絶を訴え、「ヒロシマの心」の実現に身を挺して取り組まれている被爆者の声に、真摯に耳を傾けることを提案する。

現在、国際社会には戦争や紛争のみならず、さまざまな暴力が蔓延し、深刻な問題が頻発している。この背景には、過剰な自国中心主義があり、自分の国さえ良ければよいというその考えが、独善的で排他的な風潮を国際社会に増長させているのである。また、行き過ぎた利益追求が世界に過去最大の経済格差を生み出し、グローバルサウスの貧困を慢性化させている。さらには、人類の生存のための大切な資源が浪費され、気候変動も加速度的に悪化しており、地球と人類の持続可能性への筋道を立てることを困難なものにしている。

この世界情勢において、私たち宗教者は、G7サミット参加国指導者とともに、将来の地球社会の平和と持続可能な世界の実現に対する責務を果たす決意である。私たちは、2019年ドイツ・リンダウ市で開かれた第10回WCRP世界大会で、世界の宗教者と共有した「他者と自己の幸福は本質的に共有されるものであり」、すべての人々が「つながりあういのち」で存在しているという信念を、改めて確固たるものとする。それは、「人の生命を救う者は、全人類の生命を救ったのと同じである(クルアーン)」、「人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい(新約聖書)」、さらに「怨みに報いるに怨みを以てしたならば、ついに怨みの息むことがない。怨みを捨ててこそ息む(法句経)」など、多くの宗教に共通して歴史的に語り継がれてきた信念である。

この信念にもとづき、ここに、地球と人類の持続可能性に向けて、G7サミット参加国に対する私たちの切なる提言を、以下の通り表明する。

提言1:分断から和解、対立から対話へ
現在、国際社会は戦争や紛争によって多くの対立、分断が起きている。ウクライナ戦争をはじめ、世界は敵と味方に分かれることによる強い相互不信がはびこっている。戦争助長や敵国攻撃といった好戦的な姿勢は、暴力の増大を促し、より多くの悲劇を生じさせる。G7サミット参加国は率先して、戦争終結に向け、分断から和解へ、対立から対話への発信と実践を強くすること。

提言2:核戦争回避と核兵器廃絶
ウクライナ戦争によって核兵器使用のリスクが高まっている今、核兵器使用が全人類、全生態系の壊滅を導くという危機感を強く示し、いかなる場合であっても核兵器使用は許されないというメッセージを繰り返し発出すること。そして、広島、長崎をはじめとする被爆者が訴えるように、何よりも約13,000発もの核弾頭が地球上に存在していること自体が問題である。G7サミット参加国は、早急に廃絶する意思を表明し、そのための法的措置をともなう具体的な政策を実施すること。

提言3:地球の持続可能性への責任
国連は、早ければ2030年には世界の平均気温が産業革命前よりも1.5度上昇すると警告を発している。G7サミット参加国は、現状の気候変動対策をさらに加速させる必要がある。今世紀半ばに温室効果ガス排出量を実質ゼロにするというパリ協定遵守への強い意思を再確認し、各国においてカーボンニュートラルの達成時期をより早めた法的基盤を設けること。

提言4:SDGs達成への責任
今年は、2030年までのSDGsの中間年である。世界全体のSDGs達成度は、ここ数年の間に減少しているといわれている。新型コロナウイルスのパンデミックやウクライナ戦争による、食糧安全保障の脆弱化やエネルギー価格の高騰などが原因である。G7サミット参加各国は、改めて、SDGsが、人類の生き残りをかけたサバイバル目標にほかならない最優先課題であることを肝に銘じ、SDGsの達成に必ずや責任を持って取り組むこと。特に議長国日本は、ジェンダーや国籍などによる差別状況の改善の達成度は低いとされている。早急にSDGs対策の向上を図ること。

提言5:極端な経済格差の是正
約2,000人の裕福な人々が持つ富は、貧困層に属する46億人の富の合計よりも多い。このような異常とも言える経済格差は、急激なデジタル化による産業構造の変化やコロナ禍においてますます広がっている。富裕層は富む一方で、貧困層はますます困窮しており、格差の負の連鎖が強まっている。今こそ、一人ひとりの人間の尊厳を堅固に守る「人間の安全保障」の観点から、この非倫理的な状況の改善に向けて、G7サミット参加国は、経済活動における適正分配に配慮し、所得や資産の不平等の減少に責任をもって取り組むこと。

提言6:信教の自由の堅持
2019年、世界人口の79%が、宗教または信教の自由に対する深刻な侵害が存在している国に住んでいると報告されている。このことは宗教に関わる暴力や差別が引き起こされる要因となっている。すべての基本的人権の基礎である信教の自由は、何よりも優先されるべき権利である。G7サミット参加国は、権威主義的な国家が増える昨今の国際社会の中で、信教の自由が脅かされる現状を注視し、この自由を堅持するあらゆる方策を講じること。

私たち宗教者は、G7広島サミットが、真に地球と人類の持続可能性を高める有益な契機となるよう、心から祈りを捧げ、かつ私たち自身の平和に対する責務を果たすべく、たゆまず行動するとの誓いを新たにするものである。

2023年5月10日
(公財)世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会

<English> FINAL Religious Leaders’ Recommendations for G7 Summit_en(PDF)