公益財団法人 世界宗教者平和会議日本委員会

Heartful Message

こころの扉

グランド・ゼロからの『使命』

日本キリスト教協議会議長・WCRP日本委員会評議員 吉高 叶

「私たちには使命があります!」。今年の8月6日、76回目の広島原爆記念式典に響いた、子ども代表の二名の小学生による「平和の誓い」の第一声です。そして、その「使命」とは、あの日の原爆の惨劇とその後の悲劇を、自分たちが聴き取り、考え、語り伝えることだと語られたのです。更に子どもたちは大切なことを言い当て、言い抜きました。「ほんとうの別れは、会えなくなることでは無く、忘れてしまうこと」だと。忘れずに自分たちの世代が心に刻み、それだけではなく次の世代に語り伝えていくこと、それが自分たちの使命だと最後に再び結んだのでした。

大切なことについて考え、自分たちの心に響いたことを、子どもながら精一杯決心して語りました。使命を受け取り、使命を宣言したのです。とても立派でした。

76年前、あの焦土と化したグランド・ゼロの中から生まれた「使命」があります。「核兵器廃絶」という使命です。その使命に生きた人々の誠実によって確かに実を結んだものがあります。今年1月22日に国連の核兵器禁止条約が発効したこともその一つです。また、いわゆる「黒い雨」訴訟の原告勝訴判決の確定もそうでしょう。あまりにも時間がかかりましたが、それらはまぎれもなく被爆者たちの不断の努力、諦めずに捧げられた祈りの結実でありました。あの日、爆心地に響いていた問いかけの前に立ち続けた人々の誠実と信念がもたらした賜物です。

しかしながら、他方では、核抑止力という虚構の力学に今なお依存し、原爆被爆国であるにも拘わらず核兵器禁止条約を批准することを躊ためら躇い続けるこの国のリーダーたちの姿があります。広島と長崎というグランド・ゼロを自らの国土の中に持ちながら、その自分の中に刻み込まれた原点に立てないでいます。アジアの国々を侵略し、国内外の多くの人々を犠牲にし、沖縄戦を引き起こしたあげくに刻まれたグランド・ゼロ。76年前に、果たして、どこから再出発をしなければならなかったのか、その立脚点をずらしてはならないのだと思います。

「ほんとうの別れは、会えなくなることでは無く、忘れてしまうこと」。歴史を忘れ、使命を忘れるとき、私たちには悲しい別れが訪れます。いのちとの別れ、平和との別れ、未来との別れが。

平和をつくりだすことを「使命」として表明し、協力して働くこと。それが、私たち宗教者の姿でなくてはならない、と思わされています。

(WCRP会報2021年10月号より)

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