公益財団法人 世界宗教者平和会議日本委員会

Heartful Message

こころの扉

人とつながること~CommuniHeartプロジェクトにかかわって

東寺真言宗大本山石山寺座主・WCRP日本委員会青年部会幹事 鷲尾龍華

昨年の十二月、S状結腸がんで九年間の闘病の末、私の父は七十五歳の生涯を閉じました。私はただ一人の子どもでしたので、自覚している以上にとてもかわいがってもらったのだろうと思います。生前には気がつかなかった愛情を、亡くなってから思い出すことがたくさんありました。

たくさんの弔問の中で、色々な人から父の思い出話を伺いました。そこには私が知らないエピソードがいくつもありました。中には、今の自分があるのは父のおかげとまで言ってくださる方もおられました。私は衝撃を受けました。多岐にわたる父の逸話に、父という一人の人にはたくさんの顔があったのだと気がついたのです。

心理学では「ペルソナ」を説きますし、作家の平野啓一郎氏は「分人主義」を提唱しました。分人主義とは、その時々の相手や環境に合わせて、自分自身が別の人間(分人)になるということです。そして、そのときの自分を「分人」と呼ぶのです。ペルソナが「本当の自分」を使い分ける仮面であるのに対し、分人主義ではすべての人に接している時の自分が「本当の自分」であるとされます。

そうすると、父という人間はたくさんの分人で構成されていたのでしょう。そしてその大部分を私は知らなかった。「本当の自分」というのは一体なんなのか。実は存在すらしないのかもしれません。そして、一人の人と長く過ごしたからといって、その人の「本当の自分」を知ることは、きっとできないのだろうと思いました。

コロナ禍の真WCRP日本委員会青年部会の女性メンバーを中心に、「CommuniHeartプロジェクト」を立ち上げました。コロナ禍で女性の自殺率が増えたことをきっかけに、若手の女性を対象にしてコミュニティを作り、「女性の生きづらさ」に焦点をあてた活動をしようというものでした。

この活動は、まずは事務局メンバーが自らの内面を話すことから始まりました。この作業を通じて私たち自身がまずつながることができました。話す人も聞く人も、自然と涙がこぼれました。皆、色々な苦しみを経験してきたこと。そして自分の話を聴き、涙をこぼしてくれる人がいることに、大きな救いを感じた時間でした。

第一回では宗教とともに生きる女性が多く参加されました。異なる宗教を信仰していても、心からのつながりを持つことはできるのだと、大きな気付きをいただきました。

私の晋山の日、プロジェクトメンバーが皆で綺麗なお花を贈ってくれました。メンバーのあたたかな心に培われたつながりは、私の人生の大切な時に励ましと勇気をくれました。一人の人のすべてを知ることができなくても、「本当の自分」がわからなくても、その瞬間に何かを与えあうことがきっとできる。そのことは今も私を支えてくれていますし、私も誰かを支える人でありたいと、心から願っています。

(WCRP会報2023年8月号より)

BACK NUMBER