公益財団法人 世界宗教者平和会議日本委員会

Heartful Message

こころの扉

被災地の祭礼の復興に向けて

國學院大學教授・WCRP日本委員会平和研究所所員 藤本頼生

甚大な被害をもたらした能登半島地震の発生から三か月近くを経ました。WCRP日本委員会でも、被災され避難生活を余儀なくされている方々に対して物資等の緊急支援をはじめ、連携団体とともに協力しながら被災者への心のケアを重視した救援活動が続けられているところですが、まずは此度の地震被災された方々に対し、謹んでお見舞いを申し上げますとともに、被災地の一日も早い復旧、復興を願う次第です。

今回の能登半島地震で大きな被害を受けた被災地では、例年であれば、節分後の二月六日に輪島市の鬼屋神明宮で五穀豊穣を願って斎行されるぞんべら祭りが行われると、同九日に奥能登の各農家で行われる民俗行事のアエノコトで田の神を田へ送り出した後、三月十八日~二十三日に羽咋・鹿島郡内の二市五町をめぐる平国祭が終わると能登地方に春が来るといわれています。過去の震災でも社寺の祭礼の復活は、被災地の住民にとって希望の灯の一つとなってきましたが、今回の被災地域の多くは少子高齢化と人口減少が著しく進んできた地域でもあり、地震の被災による能登地域での深刻な被害が、地域文化の柱となってきた様々な祭礼を停滞・断絶させるのではないかと危惧しています。とくに能登地方といえば、千年の伝統を誇る七尾市の青柏祭をはじめ、旧中島町のお熊甲祭り、能登島向田町の火祭り、能登町のあばれ祭など歴史が古く全国的にも著名な祭礼も多い一方、近年では同地方の神社において夏から初秋の祭りの象徴ともいうべき、巨大な風流灯籠であるキリコの担ぎ出しが過疎化によって維持困難となった地域があるとも伺っています。こうした各祭礼・民俗行事は、当該地域の人々の紐帯ともいうべき存在です。能登地域は古くから神仏への信仰心の篤い地域だけに、人々の精神風土の回復に向けて社寺を中心とした被災地の祭礼行事への支援を行うことも復興の大きな手助けとなるものと考えています。労働と休息、生産と消費といった淡々とした日常生活のなかで、緩衝帯として機能しているのが、ハレの日ともいうべき祭りや諸種の習俗儀礼であり、祭りは人々の活力の源泉です。これらが被災地の人々の暮らしのリズムとして一日も早く復活し、日常生活のなかにうまく統合・調和できるよう、各々の宗教者のみならず宗教団体からもできることを模索していかなければならないでしょう。

幸せな世界を目指して活動する宗教者の根底にあるのは、神々や仏への不断の祈りです。このたびの震災の被災地の祭礼復興への支援はもとより、これからも戦争や災害などによって様々な苦難に悩む人々を救うための継続的な支援がなされていくことを願ってやみません。

(WCRP会報2024年3月号より)

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